
Artist's commentary
水着鳳翔さん
必要ないだろうと思いながら艤装を持ってきて良かった。
「あれかなー?」
「えー、あれじゃなーい?」
「違うよ、まだ見えないって」
そんな会話が聞こえてくる。
弓懸を着け弓を握り足踏みの所作を行い私の視線は遥か遠くの水平線に注がれる。
いつもと違う砂地の感触を足の裏に感じながら丹田を意識しながら胴造りをする。
深く息を吸い意識を水平線の向こうに飛ばしながら雑念を払う。
心頭滅却明鏡止水、私と潮を孕んだ空気が一体化していく。
「この方向だ」
はっきりした確信を保って弓構えの所作に移る。
ザブーン…ザブーン…
さっき迄聞こえていた会話の声が遠くになり波の音だけが私の中を満たしていく。
暫くするとその音も聞こえなくなる。
静かだ。
いま私の目には一粒の点が見える、波間に揺られ上がったり下がったり、右へ揺られ左に揺られ。
間違いなくこちらに近付いてくるのを感じる。
打ち起こしの所作に移る。
鏃と的の間に張られた一本の細い糸を感じる。
弓道においては的を射るのでは無い、この細い糸に矢を乗せるのだ。
ピンと張られた糸は的まで矢を運んでくれる。
糸をギリギリまで張り詰める気持ちで引き分けの所作を行う。
弓を引く程に感じられる糸の重さが心地よい。
会、弓を開き、近付く的を感じつつ時を待つ。
心の中の波が膨れ上がりそして引いていく。
その感触が何度も押し寄せ、そして一番大きく押し寄せるのを感じた時、遠くの波間に影が見えた。
ピュゥ!
つがえた矢が弦から放たれ遠くの波間に吸い込まれていく。
残身の所作に移ると同時に
「ギャッ!」
との声と同時に波間に見えた影が跳ね上がり
血飛沫を撒き散らしながらサブゥゥゥンと海の中に消えていった。
「海に着いたら私と一緒に居てくれるって言ったのに・・・」
そう心の中で呟く。
遠く海の上に立つ艦娘達がざわついているのが聞こえ、その輪の中から
「提督ー!提督ー!」
と叫ぶジェーナスの声が際立って大きく聞こえた。
「そう…あの娘が…」
そう呟くと鳳翔は再び矢をつがえた。

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