
Artist's commentary
ラクリムの司祭:ユミドリ
その名は弓を手に取り獲物を仕留めるものの意味を持った。彼女はかつて、彼女として過ごしたのは幼少期のほんの僅かだったのだ。物心ついたとき両親から手渡されたのは半身が竜である小さな少年イヅキだった。その名前は射るために弧を描く月の意味をもった。それは両親が継いだ緑色の苦しみの炎。炎はユミドリに手渡され、竜の半身の少年はその炎がやがてユミドリに完全に燃え移るまで生き生きとしていた。炎はユミドリの子宮を爛れさせてしまった。ユミドリがそうして女性であるのを捨ててしまってから、ユミドリの前にイヅキの骨が転がるまでにユミドリは背の低い男に変容していた。ユミドリは男となった身で、奴隷として使っていた、もとは高貴な出身である少年イズミのことを愛でていたのだ。確かに、友情と尊重を持って。ユミドリはイズミを奴隷でなくし充分な教育をもって一人前の聖職者としたのだが、イズミはユミドリよりも人魚のことを愛したのだ。イズミ自身が司祭となったラクリムの生贄の人魚の腹に、イズミは聖職者の身で子供を抱かせたのだ。ユミドリは失望と羞恥によって真っ青になった。ユミドリはこれ以上イズミを信ずることができなったのだ。もしも自分が清潔な、まだ火に焼かれない女だったら寄り添いたいと思った男を、もう守ろうとはしなかった。イズミが人魚に産ませた子はイズミと一緒にミレの島に渡ってしまった。その後イズミは息子とともに生き延び島を新たにラクリムの布教で染め上げた。ユミドリはイズミが死に、ミレの司祭がいなくなったとき、ミレの島にやってきた。自らが司祭となるために。イズミは老いて死ぬ前にユミドリへの感謝の言葉とともに依頼をしたのだ、この島をぜひとも賢く導いてくれないだろうか、と。ユミドリは冷笑した。それでもイズミの面影を持つ息子の顔を見たくなったのだった。ただ、イズミへの不信感と自分への羞恥の心で燃えていた。ユミドリはイズミの息子を自分が受けた辱めと同じくらいに陥れたかった。それまで生贄の儀式を習慣化していなかったミレのラクリムに生贄を習慣化させようとした。そのころ元のラクリムの中心地「碧街(ヘキガイ)」は汚れてしまった人魚の生贄による不信から堕落の一途を辿っていた。それも要因であったかもしれないが、ユミドリはミレをラクリムの中心にしようとした。
ユミドリは使い物にならなかったイズミの息子を捨て去ったあとも生贄を待っていた。その生贄こそイズミの孫にあたる、まだ小さな男の子ウタカタだった。ユミドリはユーレンが自分の死後のためにと単体生殖で残した卵「メディヤ」「オーセ」「イレーク」をつれてきてもよかったのだ。ユミドリはこの手でイズミの血を引く者を聖なるものとし、そして辱め、その手のうちに調教しきってしまうことを望んだのだ。ユミドリはウタカタを幼い頃から教育した。踊りと歌を覚えさせ、誘うような仕草まで教えさせた。自分が出来なかったことをその幼い子にすがる様に押し付けた。「ウタカタ、お前は聖なる踊り子なんだよ、よく神様のために濡れるんだよ、わかったね。いいかい、お前の両親は逃げてしまったんだよ、お前を残して、だからお前は両親の怠惰のために生贄の仕事を全うするのだよ」老人であるのに奇妙にみずみずしい手で、ユミドリはウタカタの肌を撫でた。ウタカタはその手が火のように自分を炙るのだと感じた。痛みがそうさせたのか、ウタカタはユミドリには全く逆らえなくなった。ユミドリはウタカタを島に客を呼ぶための踊り子の姫にも仕立て上げ、島を賑やかにした。ユミドリは酒を作り島に活気をもたらした。ユミドリは大変島のものに感謝され尊敬されたが、ユミドリの心が休まるのはウタカタが儀式によって可哀想なうめき声を上げながら泣いている時だけだった。
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