
Artist's commentary
いつか、陽を仰いで
「それでも、私はきっと、いつの日か━━あの場所に行くんだ。」
遥かな地平線が払暁に染まった頃、私の耳に鈴のような声音が届いた。
今回、私達のチームに同行して来たその声の主は
蜂蜜色の黄金の髪と、透き通ったアイスブルーの瞳を持つ
まだ二十にも満たないような綺麗な娘だ。
私達のような、探検家や冒険家などといった業界では
彼女みたいな存在は非常に物珍しく、またその家柄も良家の子女といったものらしかった。
なんでも、数年前に両親や親族の制止を振り切って、家出同然に飛び出してきたそうで
数々の職をこなしながら、ユーラシア大陸を四年かけて横断した事もあると言う。
そんな、見かけに拠らずとんでもない行動力を持っていた少女は
今回が最後の旅なんだ、と前置きしてから、先程の台詞を呟いたのだった。
「最後の旅」の理由を尋ねれば
彼女の実家の経営する会社と、ユーラシア大陸横断中に出会った現在のパトロン(後援者)━━日本の資産家らしい━━が有する企業が
業務提携をするにあたり
彼女と、その資産家の息子との間に婚姻関係を結びたいと言ってきたのだという。
彼女は、少し寂しそうな、困ったような笑みを浮かべながら、「私は、家に迷惑かけてばかりだったからね。それに…」
それに、恩人の顔に泥は塗れないよ。━━そう零した。
* * * * *
しばしの沈黙の後、その空気を変えようとした私が
「そういえば、先刻言っていたあの場所って、あの山ってわけじゃないだろう?」と、おどけて問えば
「あんな所は誰でも、何時でも行けるじゃないか。」と彼女は苦笑し
それじゃあ、もっと遠くの方かと尋ねてみれば
「もっと、ずっと遠くだよ。」と微笑む
いよいよもって解らない顔をしていると、彼女は満面の笑みを浮かべ、夜明けの空を指差した。
「ほら、あの場所さ。━━と言っても、大分明るくなっちゃったから見辛いけど」
そう言った彼女の示す場所。その先には薄っすらと輝く星があった。
金星だ。
あの場所って、あの星か?宇宙飛行士でも行ける場所じゃないぞ
そんな感じで少し茶化して言ってみれば、彼女は「そんなことは知ってるさ」とクスクスと声を上げて返す。
それから、真っ直ぐに星を見詰めながら言葉を紡ぐ。
「━━それでも、きっと行くんだ。
行けないけれど、それでも行くんだ。
他人から見たら馬鹿みたいな話でも、頭では無理だって解っていても。
それでも、心は、いつか、其処に行くんだ。━━ってさ、そう叫ぶものなのさ。」
━━だって、人間ってさ、人生ってさ、そういうものなんじゃないかな?
そう言って、陽を浴びながら、微笑みながら、少女はゆっくりと振り向いた。
人生を語るにはまだまだ早い、一周りは年下の少女の言葉と笑顔が
何故か、ひどく心に残り
私はその衝撃の為に、その後、彼女と何をどう話したのかの記憶があやふやになっていた。
━━気がつけば私達の旅は終わり
私達のチームは祖国へと
彼女は日本へと向かう旅客機のチケットを持っていた。
それが彼女との別れだった。
* * * * *
あれから月日は流れて、はや二十数年は過ぎただろうか。
私は今、夜明けの空に明けの明星を見上げている。
こうやって見上げる金星は、あの少女と旅した
僅かな、それでいて鮮やかな時間を思い出させる。
後々手紙のやり取りをして
かの資産家の下に嫁ぎ、一人娘を産んだと言う話を聞いた。
その娘が自分譲りの髪と眼を持っていて自慢だったりだとか
旦那がその娘を溺愛してちょっとウザいとか
家の仕来り通りに名付けたら物凄い名前が長くなったとか
━━まぁ彼女も大概長い名前だったが。
その手紙も、何年も前に、ある日ぱったりと途絶えたままだった。
* * * * *
そして私の手元には今、一通のエアメールがある。
懐かしい名前と、見知らぬ名前があり、見知らぬ方は彼女の娘らしかった。
その手紙で初めて━━彼女が亡くなった事を知った。末期ガンだったそうだ。
遺品整理の際、母が大事に保管していたと言う、あの娘が自由に旅をしていた頃の友人達との手紙を見つけ
それを辿って、私達にも連絡をする事が出来たのだと言う。
見知らぬ筈の彼女の娘から、母は良く
「冒険は人生で、人生は探検なのよ。
…あの人達は友人で、ひとたび一緒に旅をすれば、もう家族みたいなものだった。
図々しくもこっちが勝手にそう思ってるだけなんだけれどね。」
━━それでも、人間って、人生って、そういうものなんじゃない?
そう言っていたのだ、と。
その手紙に書かれていたそんな一文を目にした時、私はフッと悟ったのだ。
━━あぁ、ああ、彼女は確かに旅に出ずに亡くなった。
けれど、彼女は旅をしていたのだ。
あの日見た明星に向かうように、心の赴くままに。
かつて大陸を渡った彼女が、島国の一家庭に納まっても
病床の淵で、家族に看取られる日を待ちながらも。
それでも、旅は続いていたのだ、と。
* * * * *
私は今日も金星をみる。
友人が向かったあの星を。
聞こえるか?
聞こえるなら応答されたし。
返答は無く━━それもまた善し。
■相変わらずの長文乙。
コレhttp://www.nicovideo.jp/watch/sm9362416を無限ループしていたら脳裏に浮かんだ妄想を出力したり。
オリジナルキャラの母親の話という物凄いニッチだけれど、それもまた善し(・ω・)
それと色塗りの練習とか雲とかザクザクかいて楽しかった(小並感
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